大人の発達障害

大人の発達障害とは

大人の発達障害とはおかしなネーミングです。発達障害は先天的な障害のため大人が発症することはありません。
しかし子供のころからどうも対人関係や行動に特徴があって、大人になってからまわりとうまくいかず苦労し、努力しても解決しない事があります。
それが上記特徴と関連している時、大人の発達障害と診断されます。
しばしば不安やうつ症状を合併し、その症状はお薬で改善しやすいです。

 

発達障害とは

胎児から脳は発育し、脳機能の発達は70才まで続きます。この発達の障害を最新のDSM5基準では「神経発達症」と呼び、知的障害(精神発達遅滞)も含めた広い概念です。 詳しくは

神経発達症の中から、全般的に発達が遅れる知的障害を除き、「一部だけ発達の障害があって、特徴的な症候群である者」を発達障害と呼びます。さらに、自閉症スペクトラム症(ASD)、注意欠如/多動症(AD/HD)、学習障害、コミュニケーション障害などと細かく分類します。特に有病率の高い下記の二疾患について説明します。

 

自閉スペクトラム症と注意欠如/多動症

発達障害は、乳幼児期に特定の部分がうまく発達しないため、1~2才で疑われ、ほとんどは3才児健診から小学生入学の頃までに診断されます。
これらはASDやAD/HDとして児童専門の精神科を受診したり、療育支援や、発達障がい者支援センターで支援を受けることができます。

発達障害:厚労省による説明

一方、軽症では、子供や学生の頃は求められる役割が少なく、親など周囲の援助があり、生活にあまり支障が出なかった人たちがいます。
しかし社会人になってから、「自分のやり方にこだわりすぎる」「話が通じない」「同じミスを何度も繰り返す」など周囲から受診を勧められたり、
昇格して求められる能力や業務が増えたが、職責を果たせずに自信喪失し、受診するケースがあります。これらを通称「大人の発達障害」と呼びます。

 

自閉スペクトラム症

過去には自閉症、広汎性発達障害(PDD)、アスペルガー症候群などと呼ばれましたが、現在は呼称が統一されました。男性が女性より3~4倍ほど多いです。

特徴的な症状は以下の2つです。

■ 社会でのコミュニケーションや対人交流の持続的な障害

コミュニケーションや、社会性に問題があります。言葉の意味が十分分からず、特に抽象的・情緒的な言葉が苦手なタイプがあります。また、言葉は概ね分かっていても行間が読めない、視線や身振り手振りの意味がわからない、気まずい、微妙な雰囲気がわからないタイプもあります。他人の気持ちを推し測るのが難しく「空気が読めない」と言われ、苦労します。リンク心の理論

■ 限局した、反復されるパターンの行動や興味、活動

固くてピカピカしたもの(鉄道・自動車・機械・パソコン・スマホ)等へ徹底し、限られた興味など。同じ物(玩具、本、マンガ、動画)を何度も繰り返し見る。想像力が不十分で、自由にやって良いと言われると困惑する。

融通が利かず決まりきった定型句を使う、ちょっとした変化に過度に嘆き苦しむ、毎日同じものを食べるなど。仕事のやり方の変化についていけず、身に付けた過去のやり方にこだわったりし、柔軟性がなく仕事が進みません。

 

→詳しくは右記リンク 精神神経学会 松本英夫先生に「ASD(自閉スペクトラム症)」を訊く

注意欠如/多動症

AD/HDは注意欠如と、多動・衝動性が組み合わさった症候群です。これも男性が女性より4倍ほど多いです。

■ 注意欠如

症状が注意欠如のみの場合、注意欠如障害(ADD)と言われます。一つの物事をじっくり考えるのが苦手で、次から次へと他の事を考えては気が散ってしまい、目の前のことに集中できません。しょっちゅう忘れ物やケアレスミスをします。逆に気が乗った時には時間の流れが吹っ飛んでしまうくらい没頭し、気が付けば深夜3時になっていたという過集中症状もあります。

■ 多動・衝動性

幼少期から問題になる事が多く、順番を待てずに割り込んでしまったり、人が話し終わるのを待てずに食いついたり、突然思い立った事を始めたり、席を立ったりします。周囲はあっけにとられます。イライラしがちで、ふとした拍子にカチンときて突然怒って爆発する症状は、俗に、癇が強い、癇癪持ち・疳積持ち(かんしゃくもち)、疳の虫、瞬間湯沸かし器などとも言われます。暴力行為に至る事も稀ではありません。本人は後になって反省するのですが、周りはそう許してくれず大きな問題となります。この症状は、年とともに落ち着き、多くは30才から40才までに改善します。

 

合併症

自閉症も注意欠如/多動症も知的障害も合併することがあります。

大人の発達障害は、適応障害や不安症、うつ病、躁うつ病を繰り返し発症しやすく、「生きづらさ」を強く感じています。
解決を求めて受診される方が急増しており、診断名の科学的妥当性はさておき、少なくとも対症療法が急務です。
20代から50代までの方が評価を求めて受診し、自閉症、コミュニケーション障害、注意欠如/多動症などとわかり、治療されています。

 

治療

①環境調整 ひとまずの解決にはストレス負荷の軽減が一番です。諸般の事情で降格や転職ができない場合、休職も含めて相談します。
②長い目では自分の特徴を知り、社会生活訓練を行うために心理療法、カウンセリングが大変有益です。
③また特に、注意欠如と多動、イライラ症状にはお薬がピタリと効く事があります。
④合併した不安や不眠、うつ症状にはお薬が効果的です。

 

Webサイトの自己チェック等で発達障害を自ら疑い当院を訪れる患者さんは、8割程度が適応障害やうつ状態で、心理検査や発育歴から発達障害が否定されています。
特に壮年期(40-64才)になって発達障害と初めて診断される事は稀だとご承知おきください。

→詳しくは右記リンク 精神神経学会 今村明先生に「ADHD」を訊く

診断には十分な診察と心理検査が必要です。→一度ご相談ください。